腫瘍を診断するときには、悪性・良性の判断をします。発育速度が速く転移や浸潤によって死に至らしめる性質を「悪性」と称し、悪性の性質を持った腫瘍が「悪性腫瘍」であり、悪性腫瘍のことを「がん」と総称しています。
がんは、様々な臓器組織に発生します。
その由来から、がんを「癌腫」と「肉腫」に区別しています。
がんの組織像(顕微鏡で観察した像)は多様で、性質も様々です。
同じ臓器組織からも異なる組織像・性質を持ったがんが発生します。
がんに対する治療は、その性質と進行の度合いに相応しいものを選択しなければなりません。
がんは、内視鏡検査・超音波検査・CTスキャンなど検査を行うことによって発見されます。
ですから、がんをいかに見つけるのかは、どんなきっかけで検査が行われ、がんが見つかるのかということになりますので、どのような場合にどのような検査が行われ、そしてがんが見つかるのかを知っておくことは、大変重要であると思います。
症状があって医療機関を受診した場合に、医師は症状に対して可能な限り具体的な病名を思い浮かべた上で、正しい診断を下すために必要な検査を行います。
検査結果によって、思い浮かべた診断名を取捨選択して行くのです。
胃がんを疑えば内視鏡検査、膵臓癌を疑えばCTスキャンという具合です。
特定のがんに罹りやすい方がおりますが、その原因を危険因子、がんにかかりやすい方たちを高危険群といいます。
特定のがんに罹りやすいと判っていれば、定期的に適切な検査を行うことで早期発見が可能となります。
肝細胞がんによる死亡者数は、現在年間3万5千人に達していますが、そのうち90%がB型およびC型の慢性肝炎・肝硬変患者様です。
つまりB型とC型の肝炎ウィルス感染は、肝細胞がんの危険因子ということになります。
肝細胞がんの高危険群と診断されれば、3~4ヶ月毎に超音波検査あるいはCTスキャン、腫瘍マーカーの測定による定期検査を受けられることをお勧め致します。
他の病気に対する検査や治療をきっかけに、偶然がんが見つかることもあります。
風邪でも胃の調子が悪いと感じることがあり、それをきっかけに内視鏡検査を受けたところ、早期胃癌が見つかったなどということが多々あります。
胆石で胆嚢を摘出したところ、比較的早期の胆嚢がんが見つかることもあります。
胆嚢がんが症状を現したときには、治すことが難しいことが多いので、幸運なケースと言えます。
がんの多くは、相当進行しないと症状を現しません。
がんが発見されるきっかけとなった症状が、実は、がん由来でなかったという場合も多いのです。
即ち、検査には、がんであっても検査が陰性にでる不正確さ(偽陰性)と、がんではないのに検査が陽性にでる不正確さ(偽陽性)があると言うことにもなります。
検査を受けるとき、検査結果を聞くときには、この正確さ・不正確さを知っておく必要があります。
大腸がん検査に、便潜血反応という検査がありますが、この検査は、大腸癌の病巣が進行し、くずれて少しずつ出血する状態を、便中の微量な血液を検出することで見つけようとするものです。
便潜血反応は、症状のない方から、出血しやすい進行した大腸癌を見つけようとする場合の一次検査です。
しかし、糞便には生理的にも微量の血液が混入するので、大腸癌でなくても潜血反応が陽性にでることもしばしばあります。
ポリープや早期がんでは、出血することは少なく潜血反応は陰性にでることが多いのです。
一次検査である便鮮血反応が陽性になると、大腸内視鏡検査によって本当に大腸がんかどうかを確かめる必要があり、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)は、多少大変でも正確な検査であり、早期がんやポリープも診断することができます。
便潜血反応についてこのような理解ができると、症状から大腸がんが疑われる患者様や、早期がんやポリープも含めて大腸の正確な検査を受けたいと考える方に必要な検査は、便潜血反応ではなく大腸内視鏡検査(大腸カメラ)であることが分かると思います。
そして、検査の正確さや負担を考えた上で、目的に応じた適切な検査を受けること、受けた検査の結果を正しく理解し対応することが大切です。
がんの長い診療過程では、患者様とご家族が知っておかなければならないことが沢山あります。
医師の姿勢や説明の仕方が不適切な場面も少なくないでしょう。
一方、聞く側に自分のことは知っておきたいという意思がなければ、理解が曖昧なまま事が進みます。
専門的な内容を完璧に理解する必要はありません。
納得して診療を受けるために必要な情報、診療と日常生活・仕事を両立し自分らしく生きるために必要な情報、それを医師から引き出し理解することが大切なのです。
その上で、患者様とご家族それぞれが必要とされる情報は随分違うと思います。
ですから、医師は、聞く側のそんな思いをくみ、理解することを手助けしなければならないと思います。
がんの治療は、進行度と性質に応じて過不足なく行うことが原則です。
一方、治療の成功がいつも保証されているわけではありません。大きな手術を受けても再発することは珍しくありません。
辛い化学療法を受けても効果がない場合もあります。
治療の副作用・合併症で大変な事態になることもあります。
そんな好ましくない経過への対応には、医師と患者様が情報をやり取りし診療を積み重ねる中で築いた信頼関係が不可欠です。
がんの診療過程では、治療方針など難しい決断を迫られる場面があります。
決断に際して知っておくべき情報は、一つ一つの選択肢について、それがもたらす最良の結果と最悪の結果、その結果が生じる大まかな確率です。
決断の方法は、最良の結果を期待するか、最悪の結果をできるだけ避けるか、無難なところを選ぶかに分かれます。
楽観的・悲観的・その中間ということもできます。
決断には、年齢・性別・性格・生活環境・仕事・趣味さらには人生観・価値観が影響するでしょう。
自分らしく決断するしかありません。そんな理屈通りには決断できないと言われれば、それも当然のことだと思います。
そんな時欠かせないのが、傍らに居る医師の助言であると思います。
本当に迷ったら、主治医に「自分だったらどうしますか」「あなたの家族だったらどうしますか」と、尋ねてみるのも良い方法だと思います。
症状もなく元気に働いている方が健康診断を受けるとき、がんに関係して次のような不都合が起こる場合もあるのです。
健康診断に、がんに関わるこのような不都合があっても、健康診断の利点を否定するものではありません。
検査のことを知り、検査結果を感覚的に受け止めず理解し、健康診断の利点を生かしていただきたいと思うのです。